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第60回記念メッセージ
「第60回記念大会を迎えて若手研究者へのメッセージ」
京都大学名誉教授、NPO・食の安全と安心を科学する会(SFSS) 顧問
小川 正

 今年度の日本栄養・食糧学会近畿支部大会が第六十回目の記念大会として開催されることを皆様と共にお祝い申し上げますと共に、長きにわたり学会の学術レベルの向上・発展に努められ、支部の運営に尽力されてこられた諸先輩方のご努力に感謝いたします。
 大学を卒業してから私の栄養・食糧学分野における研究・教育活動は正に支部の歴史と共に歩んできたことになります。その間、学問の進歩は著しく、研究の領域も拡大し、既に研究の最前線を退いた者にとっては、アップデートな話題に追従できなくなり、新世代の皆さんの台頭を頼もしく思いこれからの活躍を期待しているところです。しかしながら栄養・食糧学分野の研究が如何に進化・発展したとは言え、私達を取り巻く研究環境はそれほど向上・改善されたとは言えません。さらに降ってわいたコロナ禍の悪条件の下で研究・教育に日夜奮闘されている姿に敬意を表します。おそらくこの試練のトンネルを抜けた先には新しい研究環境が展開することが予測されます。この時期に敢えて後進若手研究者の皆様へ私の研究生活から得た教訓をメッセージとして送りたいと思います。私たちの属する地味な領域の研究者は“孤独かつ貧乏”です。従ってこの世界で勝負するには、徹底した“情報収集”に徹し、その中から“落ち穂”を拾いだし、豊富なアイデアを駆使し、“人との出会い(討論相手や共同研究の相手)”、“ものとの出会い(研究の対象、テーマの発掘)”を大切にしながら、“ミサイル”の様な高価な道具に頼らずとも身の回りにあるチープな“竹やり”ででも勝負を挑み、常に“既成概念への疑義・挑戦を忘れない姿勢・努力が大切です。得られた貴重な業績・成果・主張は可能な限り国際学会、欧文誌で世界に発信を。最後に、皆様方の今後の益々の飛躍発展を楽しみにしております。

【略歴】
 小川 正(Tadashi OGAWA)
昭和44年9月 京都大学大学院農学研究科博士課程終了(農学博士)
昭和44年9月 京都大学・食糧科学研究所助手
昭和49年4月 文部省在外博士研究員(米国ペンシルバニア大学歯学部生化学)
昭和50年1月 徳島大学医学部助教授
平成4年5月 徳島大学医学部教授
平成10年4月 京都大学・食糧科学研究所教授
平成12年4月 京都大学・大学院農学研究科教授
平成16年3月 京都大学定年退官(京都大学名誉教授)
平成16年4月 関西福祉科学大学教授(平成23年3月まで)
平成23年4月 低アレルギー食品開発研究所・代表社員
平成23年4月 低アレルギー食品開発研究所(代表社員)・「NPO・食の安全と安心を科学する会(SFSS)」顧問  
現在に至る
「今、栄養学が目指す必要のある研究の要素とは何か?」
大阪府立大学名誉教授、大阪府立大学研究推進機構生物資源開発センター
中野 長久

 ヒトの身体は37-40兆個とも言われる細胞と、60‐100兆個ともされる腸内細菌による生物群から成り立ち、それらが組織、器官を作り、複雑なシステムを見事に生命維持という壮大な宇宙をバランス良く、一糸乱れない、組織化された流動の中で成立させている。そして、学び、活動し、疲れて眠るときも常に、身体はバランスを保ち健康に生きるという目的のみにエネルギーを生成し脂肪、糖、タンパク質、ビタミン、ミネラル群と多くのホルモンによるホメオスタシスをいつも保つ制御系を確立している。そしてすべての栄養素が酸素と水の存在下でダイナミックな反応のバランスの中で生命は営まれている。そして一つ一つの細胞のクロストークによって生命は維持され、それを支える細胞成分は数千にも及ぶとされる。それらの一個でもかけるときに私たちの身体は不調を来たすことになる。それ故に極めて高度に調和した組織群の存在があって初めて生命が営まれることになる。
 日本人、外国人の区別はすでになく、人という個体は唯一であり、同じ状態にある個体は二つとないことになる。 すべて異なる個体の存在がバランスを保ち生命群を形作っていることになる。そして、日本人の平均寿命(女性、87歳、男性、82歳)は国際的にも高く、1億人以上の人口を擁する国の中では長くトップを占めている。一方最近では、健康寿命と言う言葉を良く耳にする。日常生活が常に健康な状態で送れている年齢が私たちヒトとしての真の寿命と言えるのではないかと言う考え方である。健康寿命は、我が国では女性が75歳、男性は72歳とされている。平均寿命との差はかなり大きく、この差は、お医者にかかったり、寝たっきりの状況となる。この間の時間が、本当に健康と言えるかと言うと極めて疑問であり、本当の人としての寿命とは健康寿命こそと思うのは、私だけであろうかと思う昨今である。そして、私達の研究分野として健康寿命を平均寿命と同等レベルにまで持ち上げる事こそ目指すべき目標ではないかと常に感じている。今、この考え方に向かって挑戦することが食品栄養、栄養生理学の一つの目標かとも考えている。

【略歴】
 中野 長久(Yoshihisa NAKANO)
1968年 東北大学大学院農学研究科博士前期課程修了
1968年4月 島根大学農学部助手
1969年5月 大阪府立大学農学部助手
1975年3月 農学博士(東北大学)
1977年10月 大阪府立大学農学部講師
1981年4月〜
1991年3月
大阪府立大学農学部助教授
1991年4月〜
2007年3月
大阪府立大学農学部教授
2007年3月 大阪府立大学農学部退職・名誉教授(現在に至る)
2007年4月〜
2008年3月
甲子園大学教授・学生部長
2008年4月〜
2014年3月
大阪女子短期大学 教授・学長
2007年4月〜
現在
大阪府立大学研究推進機構生物資源開発センター 客員教授
現在に至る